「非協力的な」スペースデブリを除去するための3Dプリント部品

• 要望：NEMA11ステッピングモータ2個、イグリデュールJ260トライボフィラメント製3Dプリントナット、イグリデュールV400製トライボテープ
• 製造方法：FDM方式
• 要件：部品の温度耐性及び圧力耐性、耐久性と軽量設計、確実な排出機構
• 材質：イグリデュールJ260 
• 産業：航空宇宙・航空業界
• メリット：ステッピングモーター、送りねじ、樹脂製スライド部が確実な排出を実現

用途の概要：
スペースデブリの回収を成功させるためには、まず宇宙空間の動きに関する部品の試験データを収集する必要があります。そのために、ブレーメン大学とブレーメン応用科学大学の学生6名で構成されるチームは、排出された試験体を使って、センサーやカメラで宇宙空間の物体の動きや位置を記録するロケットモジュールを開発しました。2つの送りねじは排出機構に並行使用されます。送りねじは、空気摩擦による+200℃の温度など、過酷な負荷にさらされても確実に機能しなければなりません。そこで活躍したのがイグスのコンポーネントです。ドライリン送りねじは、それぞれNEMA11のステッピングモーターで駆動されました。試験体のブラケットには、イグリデュールJ260-PFトライボフィラメントを3Dプリントした送りねじナットを取り付けました。ポリマー製スライド部を用い、試験体が確実にブラケットから滑り落ち、ロケットから離れるようにしました。

内部から見たロケットモジュール：リニアアクチュエータが試験体をフラップの上に押し出しています。

問題点

UB-SPACE学生プロジェクトで、 6人の学生がスペースデブリを再び「回収」して処分するという問題に取り組みました。しかし、このプロジェクトを実現するために、Maren Hülsmann氏率いるチームは、宇宙空間での物体の動きに関する十分な試験データが必要でした。そのためには、キューブ型の試験体を熱圏に落下させてカメラやセンサーで観測し、そこで必要な実データを収集したいと考えていました。ロケットから対象物を落下させる排出機構の部品には、信頼性の高い材料が必要でした。限られた設置スペースと重量、エネルギー消費量、圧力と温度に対する良好な耐性など、宇宙に関わる特殊要件を満たす必要がありました。

解決方法

摺動用途に最適化されたイグスの材料を用い、チームは計画した射出機構に適した部品をすぐに見つけることができました。これは2台のNEMA11ステッピングモーターで構成されており、それぞれのモーターはカップリングによって送りねじに接続されています。この構造体は、イグリデュールJ260-PFで3Dプリントしたナットを用いてロケットの壁に取り付けられました。排出シュートの走行面には、イグリデュールV400のトライボテープが張られており、試験体が摩擦なく排出されるようになっています。
 
 

宇宙環境の保護

重大な廃棄物問題を抱えているのは、地球だけではありません。1,000個以上もの衛星が青い地球の周りを回っていますが、数十年にわたる宇宙旅行の後、宇宙空間には大量のゴミが出ています。現在地球の軌道上には、活動中の衛星にとって非常に危険な物体が3万個以上存在しています。これらの物体は時速25,000kmにも達するため、衝突時には高い破壊力を持つエネルギーを放出します。UB-SPACEプロジェクトの目的は、宇宙で廃棄物を回収し、適切に処理することです。ブレーメン大学とブレーメン応用科学大学の学生で構成された6人の学術チームは、適切な廃棄物回収キャンペーンを可能にするために、これらのいわゆる「非協力的な物体」の宇宙における動きを分析するという課題を設定しました。そのために、ロケットモジュールに搭載した試験体を熱圏に放出します。いわゆる「自由落下ユニット (FFU)」の位置と動きは、排出後にセンサーとカメラシステムによって正確に記録されるため、チームにとって実際の計算の基礎となります。

2017年3月15日に宇宙へ打ち上げられたモジュール搭載ロケット

イグスの部品が宇宙で活躍

UB-SPACEチームは、このロケットモジュールを適切なタイミングで確実に排出するためにの特殊な機構を開発しました。しかし、宇宙空間における機械使用法は、通常の地上での作業とは大きく異なります。海洋工学を専攻する学生、オリバー・ドーン氏によると、エネルギー消費はもちろん、重量や設置スペースにも制限があるとのことです。また、空気の摩擦により、最高で+200℃の温度が発生します。チームはいくつかの試験を経て、FFUが設置されているユニットを拡張するために、2本の送りねじを並行して使用する駆動方式を決定しました。ユニットの開口部は、あらかじめ吹き飛ばされるフラップになっています。イグスのドライリンシリーズのステンレス製送りねじは、それぞれNEMA11ステッピングモーターで駆動されます。その際、150mmの距離を3cm/sの高トルク・低速度でカバーします。構造体の反対側は、イグリデュールJ260-PFを3Dプリントしたナットを用いてロケットの壁に取り付けられています。FFUをできるだけスムーズに排出できるように、排出軸にはイグリデュールV400製トライボテープが装着されています。イグスの材料は、その最適な摺動特性により、傾きのない、エネルギー効率の高い排出を可能にするため、そのような用途にまさに理想的です。また、圧力や温度に強く軽量であることも、特殊な構造の要求には欠かせませんでした。

(左から）イグス本社のセールスコンサルタントであるFlorian SchindlerとAmina Zaghdane、Maren Hülsmann、Lars Flemnitz

3Dプリントプロジェクト：小規模から大規模まで

イグスは、今回使用したイグリデュールJ260-PFトライボフィラメントに加え、他にも3Dプリント用のフィラメントを提供しています。その名の通り、このフィラメントはトライボロジー特性が最適化されており、摩擦や摩耗が懸念されるあらゆる用途に適しています。このような用途でこそ、長寿命と180°Cまでの耐熱性がお客様のメリットとなるのです。プリント工程では複雑な形状を一度に製作することができます。積層造形は、試作品や少量生産の特殊部品に特に適しています。生産コストが低く抑えられるため、最低注文数はありません。

イグリデュールJ260-PF トライボフィラメント