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宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所では、宇宙から届くX線を観測し、星の爆発やブラックホール周辺で起きる高エネルギー現象の解明に取り組んでいます。
しかし、観測だけではわからないことも多くあります。そこで使われるのが、宇宙の環境を地上で再現する実験装置「電子ビームイオントラップ(Electron Beam Ion Trap: EBIT)」です。
今回は、この最先端の研究を支える現場を訪ね、研究者の天野雄輝さんと戸川基さんに、その技術と課題、そしてイグス製品の役割を伺いました。

天野さんと戸川さんは、天体が放射するX線を研究対象としています。私たちの目で見える光だけでなく、宇宙にはさまざまな種類の光があり、その中でも重要なのがX線です。天野さんは「僕らの目には見えないけど、エネルギーが非常に高い光、あるいは低い光がたくさんある。X線はその中でも特にエネルギーが高く、主に非常に高温のプラズマから放射されます。実は、宇宙に存在する物質のほとんどは、このような高温のプラズマの状態にあると考えられています」と話します。
こうしたX線を観測するために使われているのが、2023年に打ち上げられたX線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」です。この衛星は、X線のエネルギーを高い精度で測定することで、遠くの天体で何が起きているのかを詳しく調べています。
ただし、観測で得られたデータだけでは、その意味をすべて読み取ることはできません。天体から届いたX線が、どの元素から、どのような環境で放射されたものなのかを判断するには、高温プラズマが出すX線の特徴をあらかじめ詳しく調べておく必要があるからです。
そこで必要になるのが、地上での実験です。宇宙と同じような高温の状態を人工的に作り出し、そこから出るX線を詳しく調べることで、観測データの理解を深めていきます。EBITは、そのために使われている装置のひとつです。

EBITでは、電子ビームを使ってガスをイオン化し、宇宙と同じような高温プラズマ状態を作り出します。さらに、強力なX線を高温プラズマに照射し、そこから出てくる光を精密に測定します。
こうして得られるデータは、宇宙で観測されたX線の解釈に欠かせない基準となります。天野さんは「宇宙の観測データを正しく読み解くためには、実験室で同じ現象を再現して比較する必要があります。そのための装置がEBITです」と話します。EBITは、ドイツのマックスプランク核物理学研究所と共同で開発した装置です。宇宙科学研究所にあるものもドイツから輸入後、日本での研究用途に合わせてカスタマイズしています。

EBIT実験で重要なのが、プラズマとX線ビームの位置合わせです。EBITの中で作られるプラズマは約100μm。そこに数十μmのX線ビームを正確に照射するためには、500kg規模の装置を精密に動かす必要があります。
天野さんは「装置を動かしながら、プラズマとX線の位置を精密に合わせることが、実験の重要なポイントになります」と話します。調整が必要なのは前後左右だけではありません。位置(X・Y・Z)、水平、傾き(チルト)など、複数方向の微調整が求められます。

しかし、高エネルギーのX線を扱う実験では、放射線防護の観点から、ビーム照射中に装置の近くで作業することができません。そのため、制御室から装置を遠隔操作しながら調整する必要があります。
今回のシステムでは、レベリングブロック(3箇所)とスライドテーブル(2箇所)を組み合わせ、5軸の調整機構として構成されています。これにより、位置と角度の両方を電動で精密に制御できるようになりました。天野さんはその背景について「高いエネルギーのX線を使う実験では、外からコンピューターで操作する必要があります。照射中でも微調整できる仕組みが必要でした。そのために滑りが良い樹脂を使ったレールが必要で、位置合わせのコンポーネントにイグス社の製品を使用しています」と話します。

この装置に求められる性能は非常に高いものです。
こうした条件を満たすため、イグスのスライドテーブル、カップリング、モーター、制御システムが採用されました。これらを組み合わせた5軸の位置調整機構を使うことで、既存の装置を活かしながら電動化と遠隔操作を実現しています。天野さんは実際の使用感について「レールがスムーズに動くこと、かつ、精密な微調整ができることが必要でした。この装置では、実験で要求精度を満たす構成となっています」と話します。装置や部品を見た先輩の共同研究者たちからも感心されるとのことでした。

研究開発の現場では、あらかじめ決まった仕様に合わせるのではなく、「やりたいこと」に合わせて装置を作り上げていきます。そのため、部品選定にも柔軟さが求められます。X線にプラズマに当てる実験は最先端の研究です。戸川さんは「ほかにはない独自の装置なので全部が新しい。装置のデザインも一から自分たちで作る必要がある」と話しています。
研究費が限られる中では、性能だけでなく、コストとのバランスも重要になります。
部品を選定する上で大切なこととして天野さんは「研究費は限られているので無駄に使えない」と話し、コストパフォーマンスを第一に挙げます。また、「研究の要件に応じて、機構や構成を検討する必要がある」としています。
イグスでは、標準部品だけでなく、使用条件に応じた最適な機構の構成提案や、モーター・制御を含めたシステム提案まで対応しています。また、高い性能を保ちながら、費用対効果の高い構成が可能です。

宇宙の高エネルギー現象を理解するための研究。その裏側では、ミリミクロン単位の位置調整という極めて繊細な作業が求められています。
電子ビーム、プラズマ、X線。それらを正確に重ねるための「動き」が、研究の精度を左右します。これらの実験装置の位置調整機構の一部には、イグスのモーションプラスチック製品が使用されています。
JAXA宇宙科学研究所の今後の研究のさらなる展開が期待されます。
今回の事例では、JAXA宇宙科学研究所の地上プラズマ実験装置において、500kg規模の装置をμm単位で位置合わせするため、イグスのスライドテーブル、カップリング、モーター、制御システムが使用されています。
今回紹介した地上プラズマ実験装置では、5軸の調整機構により、装置の位置や角度を精密に微調整できるほか、高エネルギーX線を用いる実験時にも、制御室から遠隔で操作できる構成となっています。