トラバントのホイールサスペンション用特注プラスチックベアリング

トラビのスペアパーツを見つけるのは非常に難しい。要求されるプレーンベアリングも特殊な形状をしているため、新しく製造されたスペアパーツを調達するにはコストがかかります。またベアリングはスムーズな走行を保証し、耐摩耗性があり、ステアリング・ナックルの負荷に耐えなければなりません。

イグリデュールJを素材とするプレーンベアリングにより、トラバントの愛好家たちは、メンテナンスフリーで無潤滑、しかも優れた摩擦係数を実現するソリューションを見出しました。射出成形で製造される特別な部品のおかげで、プレーンベアリングをコスト効率よく製造することができます。用途に合わせて正確にカスタマイズできるのです。

ホフマンの狙いは当たりました。トラビの愛好家は世界中におり、ドイツだけでも3万台が登録されています。そのすべてのオーナーがスペアパーツの供給で苦悩していました。「最初は棚に箱３つの在庫で始めたんだ。」ホフマンは言います。それから13年後の今日、Trabantwelt.deはドイツのマーケット・リーダーとなっています。「スペアパーツは、トリムストリップの個々のネジからトランクリッドのヒンジ、シャシー全体、35馬力のチューニングエンジンまで、3つの倉庫を満たしている。」12人の従業員が、1,800点の部品の発送と補充を担当しています。

スペアパーツの供給には落とし穴がありました。たとえばステアリング。ステアリング・ナックル用のピボット・ベアリング・ブッシュ、旋回するホイール・キャリアが不足していました。「ベルリンの壁崩壊後、ヴェルダウの倉庫が整理されたんだ。たくさんあるブッシュを掻き出して満足していた。」とホフマンは言います。しかし、ブッシュが入っているはずの青い箱が空だったとき、倉庫に衝撃が走りました。さあどうしよう？ 単純な樹脂製の輸入品は論外でした。品質が悪すぎ、耐用年数が短すぎます。「だから部品は自社で製造したいと考えた。」ホフマンは、ピボットベアリング・ブッシュを製造するパートナーをインターネットで探しました。

これがコラボレーションの始まりでした。オリジナルのブッシュがケルンに郵送され、続いて設計図が送られてきました。旋盤で試作品が作られました。ホフマンは大量生産する前にテストがしたかったのです。ザクセン州パウサで開催された8時間のストップ・スタート・フィールド・レースは、まさにそのためにうってつけでした。レーシング・トラビは起伏の多い地形を何時間もかけて走ります。親しいレーシングチームが、AB比較を実施するようホフマンを説得しました。1台にはオリジナルのGDRブッシュが、もう1台にはイグリデュールの高性能プラスチック製ブッシュが装着されました。果たしてどちらが勝つのか？クロス・レースの後、ホフマンは車の下に潜り込み、ブッシュがどのような結果になったか確かめようとしました。結果は意外なものでした。東ドイツ製のブッシュは摩耗していたのに対し、ケルンのライバル品はほとんどダメージを受けていなかったのです。「驚くべき洗礼だったよ。」ホフマンは嬉しそうに言います。「その瞬間、この製品がスペアパーツとして価値があると分かったんだ。」 そして本格的な生産が始まりました。

生産には溶融プラスチックをノズルから密閉された金型に射出し、硬化させる射出成形法が用いられました。 射出成形されたすべり軸受は、機械加工されたものより頑丈です。「商売人としては、この高品質は自分の足を銃で撃つようなものさ。」ホフマンは笑って言う。「とても頑丈で、驚くほど長持ちする。このベアリングを購入した顧客は、当分次のベアリングが必要になることはないだろうね。」

しかし、何が品質の違いを生み出しているのでしょうか？オリジナルのブッシュは繊維くずを樹脂でプレスしたもの。一方、ケルンのものはイグスが研究室で開発した高性能プラスチック、イグリデュールJでできています。「この素材の密度は1.49g/cm3、圧縮強度は35MPaで、これは小型車2台が人差し指を押しつぶす圧力にほぼ等しいです。」イグスのテクニカル・セールスコンサルタントのケビン・ベットナーは説明する。この素材は非常に頑丈で耐摩耗性に優れているため、業界では金属製すべり軸受の代替品として人気がある。

「この高性能プラスチックは、ベースポリマー、繊維、充填剤、固体潤滑剤の混合物です。」ベットナーは言う。「ベースポリマーが耐摩耗性の決め手となります。繊維と充填剤はベアリングを補強し、大きな力やエッジ荷重も吸収できるようにします。」また従来のブッシュには吸湿性があった点も違います。 多孔質の表面が水を吸収し、スポンジのように膨らみます。そのため多くのトラビ・オーナーは硬いステアリング・システムに悩まされているとホフマンは言います。「この問題を解決したのが、高性能プラスチック製の滑り軸受だ。」ポリマーであるイグリデュールJ製のベアリングの吸湿率は、通常の気候で約0.3％。「そのため、ステアリングは長期にわたってスムーズなままだ。」